覆面時事座談会 2011.4.3

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)ってなに?

■政府調達への参入

研究者 京都の電気製品の小売屋さんの話ですが、「地元の小学校がテレビを何十台と買おうということなので、是非うちから入れてもらおうと思って入札したのに、事務所も店も構えていない大型量販店に全部持っていかれちゃった」ということです。
 今「八百万円以上のものは、全部地域限定をとって入札しなさい」となっている。それが今度はTPPで「国境を取っ払いなさい」ということになるのです。さらに、外資が入ってきやすくするために、枠を設けるみたいな話が出てきています。
 「政府調達」というと中央政府だけと思うけど、小学校も、市町村もみんなそうだから、外資から見ると非常においしい。
消費者 教育現場では、いつも限られた予算の中で限られた業者の中からしか買えないのですよ。ネットで買えば3台買えるものが、正しいルートを使わないといけないから1台しか買えなくて、すごく歯がゆい思いをしているのですね。今の話は現場からすればありがたいけど、地域の人たちが困ってゆくということなのですね。
栄養士E 今の話は「安ければいいのか」という、消費者への問いかけですよね。それが将来自分のところに別な形で返ってくる。地域の産業もダメになり、働く場もダメになるという意味でね。
生産者 利益は全部外国へ行って、日本には落ちないということやね。

■共済・保険

栄養士E 共済とか保険への影響と言うのは、どういう意味ですか。
研究者 共済って、英語にすれば【insurance】で、保険と同じなのですけど、保険と比べると、協会に保険金を納めないで良いとか、いろんな優遇措置があるのですね。でもそれは、アメリカからすれば「イコールフッティング (【equal footing】競争を行う際の諸条件を平等にすること)ではない。フェアな競争ができない」という理屈です。
栄養士E だから共済は、保険と一つにして優遇措置を撤廃しろと。
研究者 そう。でも、生協なんか厚労省と喧嘩するなんて気ないでしょう。生協はみんな何の議論もなしに共済を分離しましたよね。農協は今も分離せずにやっているから、常に攻撃の対象ですよね。

■原産地表示

生産者 7月から「米トレーサビリティ法」で米の履歴をつけますよね。TPPでは、あれが「けしからん」という話になりませんか。
消費者 「原産地表示まで緩めましょう」という話にはなるのですか。
研究者 TPP作業部会24分野の5番目に「原産地規制」があるのですよ。この中身はわからないけど、おそらくそこに関わってくるのじゃないかな。
消費者 そんな。原産地表示まで取っ払われたら、私ら値段でしか判断する方法はないじゃないですか。それこそ「選択の権利」はどうなるのですか。
生産者 「同一の経済圏なのだからそんなことにケチをつけるな」ということでしょう。
研究者 「51番目の州だから文句言うな」と。
生産者 フライドポテトやハンバーグは、「アメリカ人も食っているのだから、日本人は大腸菌ぐらいついていたって食え」と。
研究者 だけどこの「原産地規制」という分野が、9カ国 (TPPは、シンガポール・ブルネイ・チリ・ニュージーランドの小国 4カ国でスタートしたが、現在は、アメリカ・オーストラリア・ペルー・ベトナム・マレーシアを加えた9カ国で交渉中)の話し合いの中で実際どういう形になってくるのか。わからないことが多すぎますものね。
 19番目の「環境」だって、どうも我々の考える「環境」ではないですね。
生産者 どこかに解説があるのですか。
研究者 一行ぐらいのものはありますね。だけどそれ見てもわからない。まだ9カ国の会議で俎上にあがっていません。俎上にあがって初めてわかってくるわけですから。
栄養士E その時に「えっ」と言わんとアカンわけね。
研究者 そうそう。だから、菅さんなんかに言わせたら、「日本の主張をするためにも、早く入らなければいけない」ということになるのです。
消費者 まあ、一理ありますよね。後で参加したら文句が言えない。
生産者 だけど、乗るバスが間違っているのだから、「切符」を買うべきではないですよ。

■医療・免許の相互互換

消費者 医療とかでも問題は大きいのですね、TPPに入っちゃうと。
研究者 みんなに関わるのは「皆保険」ですよね。混合診療 (日本の医療における保険診療に保険外診療<自由診療>を併用すること)になったら大変ですよ。
 それから医師免許の水準が下がりますよね。お医者さんだけでなくて、弁護士免許も9カ国の中で「相互互換性をもたせなさい」ということですから。作業部会の24分野の中で言うと、13番目の「サービス(クロスボーダー)」ですね。「クロスボーダー」なんて言われても、意味がわからないでしょう。「免許の相互の互換性」なんですよ。
消費者 よその国のお医者さんが日本で働きやすいように、ボーダーラインを下げるのですか。
研究者 医師会は、「技術の水準などが下がる」と言っていますよね。だけど、「自由主義経済」の人たちは「そんなことを言っているからダメなのだ。自由化して競争した方が良くなるのだ」という言い方をしますけど、医師会、保険医協会は12月にいち早く「重大な懸念」を表明しましたね。

■TPPを巡る世界の動き

消費者 そもそも、なんでTPPが必要なのか。さっきの話では、アメリカがアジアに進出したいがために無茶を言ってきたということでしたよね。
研究者 世界を見渡した時に、経済の共同体がないのはアジアだけです。
 ヨーロッパにはEU(欧州連合)があるし、アメリカにはNAFTA (北米自由貿易協定).がある。ASEAN(東南アジア諸国連合)がそうなろうと努力してきたのだけど、少しも目覚ましい成果を上げていない。「だから、ASEANという共同体づくりを促す役割をTPPが果たすのだ」という言い分です。そこにアメリカが「その共同体づくりから排除されることは許せない」という形で割り込んできている。
 だから、「地政学上の問題だ」という言い方があるのだけれど、「東アジア対環太平洋の争い」という観点もありますよね。
消費者 アメリカにしたら、中国も大きくなってきたし、そこも押さえておかないといけない。
研究者 この10年というのは、「新興国」の経済成長に支えられた。だから「21世紀は、新興国に支えられて世界経済が成り立つ」と展望した時に、やっぱり大きいのはアジアですよ。
 「新興国」と言った時、ASEAN10カ国 (ブルネイ. カンボジア. インドネシア. ラオス. マレーシア. ミャンマー. フィリピン. シンガポール. タイ. ベトナム)と、中国、インド、韓国、そしてブラジル。アジア以外からはブラジルだけですね。
栄養士E アフリカなんかは何と呼ぶのですか。
研究者 「発展途上国」です。今までは「発展途上国」と「先進国」という二つに分けていたのだけれど、この頃は「発展途上国」の中から、特に成長が著しい国を「新興国」と言うようになりましたね。
 だけど、今世界の矛盾の表れは、今は北アフリカ、中東で勃発していますし、北米、中米、南米でも出ていますね。
 それから「新興国」は、確かにすごい成長をしているのだけど、「中国が10年持つか、持たないか」みたいな、すごく不安な国でもあるわけなのですよ。だからそこも世界の矛盾が表れてくるところです。
 そういう中で日本はどういう舵取りをしていくのかが、すごく重要になっているのですね。だから、安倍さん、福田さん、麻生さん、鳩山さんと続いてきた内閣は、みんな短命でした。それは、この人たちの資質が劣っているからというより、あまりに日本が背負う任務が重たすぎて倒れたのではないかと思いますね。
 鳩山政権が一番典型的ですよね。荷物が重たすぎて、国民の支持をバックにアメリカと交渉するということができなくて、政権が持ちませんでした。鳩山政権は、戦後60年の保守政権とは違うことを言ったと思うのですね。「安保条約、日米関係がこのままでいいとは思わない」ということを言ったから持たなかった。
 だから、TPPは、軍事、政治的な側面を見ないで、経済問題だけだと思っていると、問題を小さくとらえすぎてしまう。

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