覆面時事座談会 2011.4.3

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)ってなに?

■TPPで輸出産業は伸びるか

消費者 TPPに加盟すると農業などの弱いところはさらに弱くなるし、強い部分はさらに強くなると言われていますよね。
研究者 そう、通商国家としてはね。だから農業を犠牲にしてでも、輸出産業の競争力をさらに強めて日本は生き残らなければいけないと。
栄養士E 財界がそれをものすごく後押ししている。
生産者 この間国が言っている「TPPに参加するメリット」は、「東アジアの成長を日本も取り込む」とか、「貿易が広がって輸出ができるようになる」とか、「それをやらないと乗り遅れる」という理論ですよね。
 だけど、元経済産業省官僚の中野剛志さんなんかは「もう貿易量は増えない。日米貿易協定と同じでアメリカのちょっとした政策誘導で関税ゼロも意味がなくなる」と言っている。だから、この論理は破たんしている。そうではないのですか。

中野剛志先生のよくわかるTPP解説
1/2 TPP問題 中野剛志 2011.9.12
2/2 TPP問題 中野剛志 2011.9.12

研究者 経済産業省が「TPPに参加したらこれだけの利益が上がる」と試算していますよね。だけどその試算の対象が、自動車と、電気・電子と、機械産業の三つなのですよ。それも、日本が何もしないで、中国か韓国がそれを進めていった場合という仮説に立って、どれだけ影響が出るかを、その三業種に限って試算したということなのです。
 つまり、国益と言いながら、その三つの産業分野の利益を考えている。そういう意味では経済産業省の試算というのは、反面教師としてはすごく意味があるのではないでしょうか。

※経済産業省は、TPPに参加しない場合、「自動車、電気電子、機械産業の3業種について、2020年にGDP換算10.5兆円の減少となり、実質GDPを1.53%押し下げる」と、日本国民の危機感を煽る数値を掲げている。

栄養士E その論調を聞いていると、韓国と中国に負けるという危機感をすごく煽っていますよね。
研究者 特に自動車とかは韓国ですよね。中国はそんな力がないから。
 普通車をアメリカに輸出する場合、日本は2.5%の関税だけど韓国はゼロ、トラックだったら5%だけど韓国はゼロという、韓国との競争を特に意識していますね。
栄養士E 中国とかベトナムとか、アジアの新興国に負けているというのが、この間すごく報道されていて、「日本はダメになる」「だからTPPは必要なんや」というのを、産業界を中心にすごく言われていますよね。
研究者 一つの反論としては、「関税率」の問題もあるけれども、「円・ウォンレート」で、ウォンがどんどん安くなっているのですよね。だから韓国の輸出の方が伸びている。関税率の問題よりそっちの問題の方が大きいですよね。

■農産物への影響

消費者 分野があまりにも多岐にわたるから、全般的に話をしていたらワケわからなくなるので、農産物のところでどういう影響が出ると言われているのですか。
 特に、米、小麦、甘味資源作物、これは砂糖、甜菜とかですね、それから牛乳、乳製品、牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵など、19品目を対象に農林水産省が試算していますよね。

※農林水産省の試算結果は、TPPが日本農業に壊滅的な打撃を与えることを明らかにした。この試算は,主要農産品19品目について、内外価格差の実績を基に、輸入品と競合する品目は輸入品に置き換わり、輸入と競合しない品目(国産品嗜好の高い高級品等)は輸入の影響で価格が下がると前提して積み上げたもの。それによれば、米は新潟産コシヒカリなどを除いて9割が輸入品に置き換わる。甘味資源作物はすべてが、牛肉は4等級と5等級を除くものが、豚肉は銘柄豚を除くものが輸入品に置き換わり、日本人の食生活は一変する。また、農業は関連産業のすそ野の広い産業であり、産業連関分析により試算した関連産業への打撃も試算

研究者 要するに関税率を高く設定しているものは、影響がすごく大きいわけですね。
消費者 関税をとっぱらうから?
研究者 こんにゃくは別としても、お米は関税が778%ですから影響は大きいです。北海道とかになると今度は畜産の影響が大きい。粗糖も328%の関税だから、北海道の甜菜、それから沖縄のサトウキビね。そこはもう壊滅的にやられるでしょうね。
消費者 関税が300%というのは日本で売っている値段の3倍にして海外へ売っているということ?
栄養士E いや、そうではなくて、海外から入ってくるものが3倍になっているということ。例えば、日本で砂糖1kgが180円だったら、実は入ってきているのは60円だと。関税が無くなったら60円で入ってきているものに消費は流れるよね。加工の原料もそっちの安い方を買う。

■影響が大きい分野

研究者 焦点がぼけるから初めに農業という話になったけど、その前にどんな分野に影響が大きいのかというのを見ておいて、それから「農業」に限定した方が良いと思います。
 現在TPPの作業部会で、24分野にわたって協議されているのですが、大きいのは「金融・保険・共済」。これは農協の共済だけではなく、労災など共済と名前のつくものは全て「アメリカにないものは無くせ」ということです。
 それから「サービス全般」「医療」「政府調達」。このあたりへの影響が非常に大きいと見られていますね。
 「政府調達」の場合は外国資本が入ってきやすいように、わざわざ公共事業なんかの枠を設けるという話もあるけど、逆に日本から原発をベトナムに売り込むとか、そういうのも「政府調達」に入ってきます。だから、農業以外のこういった分野で非常に影響が大きいと言われています。
 言い方にちょっと問題がありますけど、「市場開放して意義の大きい分野は何か」と言うと、自動車とかそういうものを除くと、モノ以外では「金融」「共済」「サービス」「医療」「政府調達」。そういうところではないかと言われています。
 だから、「農業は実はターゲットではない」という議論もあります。TPPの本当の狙いは何かと言うと、一つだと見ないで、いろんなものを包み込んでいると見た方が良いと思うのですよ。
 農業だけを問題にしているのではないということ。それは事実だけども、だからと言って「農業は本当のターゲットではないから、お米とか簡単に例外を認めてもらえる」と見ると、また間違いだということも言えると思います。

【TPP24分野】
TPPにおいて作業部会として協議されている分野は、現時点で24にも及ぶ。 1主席交渉官協議 2市場アクセス(工業)3市場アクセス(繊維・衣料品)4市場アクセス(農業)5原産地規制 6貿易円滑化 7SPS(衛生植物検疫措置)8TBT(貿易の技術的障害)9貿易救済措置 10政府調達 11知的財産権 12競争政策 13サービス(クロスボーダー)14サービス(電気通信)15サービス(一時入国)16サービス(金融)17サービス(e-commerce)18投資 19環境 20労働 21制度的事項 22紛争解決 23協力 24横断的事項特別


■海外からの労働力流入

消費者 そのサービスって金融とか医療が入って来るということ?
研究者 そういうことではなしにね、労働力が入ってくる。金融は入ってきますけどね。
消費者 海外から安い労働力がバンバン入ってきたら、全ての分野に影響してきますよね。
研究者 影響してきますね。海外から優秀な人材をとってきますから。だから今でも若者たちの就職難はあるわけだけど、国内の労働力が、労働市場から放り出されるという問題になってきますよね。
消費者 「三カ月就労ビザ」とかがなくなって、いつでも来て、いつでも働けることになるのですか。
研究者 今まで財界は出入国管理法を盾に、外国人労働者を入れることには慎重だったのですよ。だけどここにきて、「安い賃金でないと輸出競争に勝てない」と、安い労働力を海外から入れることに踏み切ったのね。だから、一気にはいかないと思いますけど、規制を緩める方向で進んで行くでしょうね。
消費者 安い労働力が入って来ると、日本人だけ高い賃金というわけにはいかないし、賃金体系も崩れて社会がもう滅茶苦茶になりますよね。
研究者 そこのところは労働組合の人たちに話を聞いた方が良いと思うけど、「反対」と言うよりも「外国人労働者に日本の労働者と同じ権利を認めなさい」「最低賃金も日本人と同じにしなさい」「日本で生活するのだからそれは当然のことでしょう」という運動をすすめると、外国人労働者を入れるメリットが無くなりますよね。
 だから、労働運動としては「ILO勧告をきちんと守りなさい」とか「日本の労働者の団結権も最低賃金も全部認めてからそうしなさい」ということを要求していくというのも一つの運動のあり方ではないかと思いますね。

※ILO国際労働機関【International Labour Organization】世界の労働者の労働条件と生活水準の改善を目的とする国連最初の専門機関。本部はジュネーヴ。加盟国は183ヶ国(2009年5月現在)。 日本は常任理事国であるが、労働者保護に関わる重要な条約(1号条約(一日8時間・週48時間制)、47号(週40時間制)、132号(年次有給休暇)、140号(有給教育休暇)など)が未批准であるため、国際労働機関から問題視されている。

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