2016.2

TPP協定で食の安全・安心はどうなる
ーその体系的整理の試みー


3.日米並行協議における食の安全性についての協議
 資料3の『交換文書』
 ここで決定的なのは二国間の力関係、正当な科学的な根拠を示すことができなければ、変更を求められ、最終的にはISDSで提訴され、撤廃に追い込まれる。
1)防かび剤、食品添加物並びにBSEにかかわる規制緩和の疑念深まる
 2015年10月05日に公表された『概要』の第7章「衛生植物検疫(SPS)」では、「SPS章は、科学的な原則に基づいて、加盟国に食品の安全(人の健康又は生命の保護)を確保するために必要な措置をとる権利を認めるWTO・SPS協定を踏まえた規定となっており、日本の制度変更が必要となる規定はもうけられておらず、日本の食品の安全が脅かされるようなことはない」と記述されている。しかし、『交換文書』の「日米並行交渉関連文書」の「保険等の非関税措置に関する並行交渉」の(9)「衛生植物検疫(SPS)」では以下のように記述されている。
「両国政府は、収穫前及び収穫後に使用される防かび剤、食品添加物並びにゼラチン及びコラーゲンに関する取組につき認識の一致をみた」と。これはつまり、米国での牛海綿状脳症(BSE)発生を受け、日本は輸入禁止を続けているが、その規制を緩和することを意味しているのではないか。
2)添加物としての表示義務の排除
 収穫後に農産物の保存のために使う防かび剤について、日本は添加物と農薬の両面から影響を評価し、基準を設定している。米国は農薬としてだけ評価しており、日本の方法を“二度手間”と批判し、添加物しての評価を省くことを求めている。そうなれば日本の制度見直しにつながり、添加物としての食品表示義務が取り除かれることになる。
3)添加物の使用範囲拡大に動く
 従来から米国は、国際的に安全性が確認され広く使われているとして、日本で使用を認める添加物に45品目を指定するよう要求している。日本では4品目(アルミノケイ酸ナトリウム/固結防止剤、ケイ酸アルミニウムカルシウム/固結防止剤、カルミン/着色剤、酸性リン酸アルミニウムナトリウム/膨張剤)が未指定のため今回の日米並行協議で実施すると規定した。

4.米側の主張は「日本の食品安全基準も非関税障壁」
 アメリカは一貫して食の安全に関しては食品添加物や残留農薬の認可範囲を広げるように求めている。引き続き日米二国間並行交渉の対象となるSPS(衛生植物検疫)措置をめぐってその方向で働きかけている。日本が認める食品添加物は約800種類。これに対して米国は3000種類に及んでいる。世界貿易機構(WTO)は、科学的な根拠があれば世界基準よりきびしくする権利を認めている(衛生・植物防疫協定=「SPS協定」)が、TPP交渉はこの基準に基づいて進められる。さらに科学的な根拠を錦の御旗にかかげて安全基準の引き下げを迫ってくる。残留農薬の基準値も「コーデックス食品規格」が押し付けられることになる。これは輸出をスムーズにするため、食品多国籍企業が中心につくった規格で、交渉の流れはおのずと、輸出国のゆるい基準を輸入国が認めよという流れになっている。
 なぜアメリカはかくも熱烈に安全基準の緩和や表示義務の撤廃に取り組むのか。それはアメリカが食料を武器と位置づけ、安い農産物を世界に輸出して胃袋を握るということを国家戦略としているからです。そのためには競合国よりも安く売らなければならない。安く売りさばくためには安全性を犠牲にしなければならない。だから安全基準や表示義務が邪魔になる。だからこそアメリカは官民一体で、安全基準の大幅緩和や表示義務の撤廃を推進しているのです。
 食品添加物も世界で使用されているものは日本も早く承認せよという流れが強まっている。政府も欧米の規制緩和要求に応じる方向に大きく舵を切っている。日本の食品安全委員会も多国籍企業などが申請した実験データを追認しているのが実態である。
 日本の消費者は遺伝子組み換え食品の表示の義務化の強化を求めているが、米韓FTAでは韓国は事前協議段階でアメリカの要求を呑まされた経過がある。
 消費者はバカにされている、なめられている。安ければ文句ないでしょう。生活苦に追い込んでおけばおくほど低価格しか言わない。アジアの富裕層に安全・安心・美味しい国産農産物を、国民は安い輸入農産物を…。
 生協にかかわるものにとって記憶に新しい出来事に「中国冷凍ギョーザ事件」がある。この最初の報道は2008年1月30日のことであったが、この年の秋に世界中を震撼させたリーマンショックが起きた。この一連の出来事の中で、日本の消費者の消費行動は大きく両極にふれた。ギョーザ事件後、消費者の国産志向は瞬時に頂点に達したが、リーマンショック後、その熱気は急速に衰え瞬時にしぼんだ。
加藤好一「生活クラブ生協のめざす消費者像とTPP」、『TPP反対の大義』農文協ブックレット、2010年12月25日。
 以上で明らかなようにTPP協定は、関税問題は農業・農村の問題、食の安心・安全は消費者の問題ということではなく、トータルで日本の農業・農村を明け渡すこと、国民の安心・安全を投げ捨てることを求めている。
◯TPP協定に先行してあるWTOのSPS協定は食の安全を守るのに不十分である。TPP協定はその不十分な食の安全保障をさらに弱体化させ、骨抜きにする機会をアメリカに提供するもの。
 以下、文献K
・誤った科学主義の是正。危険性が立証されるまでは流通を容認するのではなく、安全性が確認されたものを流通させる。危険性が疑われるものは予防原則の適用を認める、などの改善は不可欠。貿易の自由化よりも人命・健康を第一に追求すべき。
・国際基準を作る団体の民主化、利害関係のある大企業を排除し、食品企業に食品の安全にかかわるデータを公開させる強制力を付与すべき。
◯TPP協定参加は、日本実施している食の安全審査を骨抜きにする機会を米国に与える可能性がある。
・日本の安全審査自体、十分とは言えないが、米国での審査に「措置の同等性」を認めることで独自の安全性の検証が不可能になり、GMOや食品添加物の日本での承認がスピードアップする恐れがある。日本の安全規制もISDSの対象となる可能性が残されている。
◯食の安全を守るためには、広範な国民の支持と覚悟が必要
・EUが合成ホルモン牛肉を断固拒否した例のように、WTO違反やTPP違反を指摘されたり、経済制裁を受けたりしても、断固として規制を堅持する覚悟が必要。TPPはまだ発効していない、国会で批准させない運動を広げる必要がある。

 SPS協定とは何か 
 食の安全性にもっとも深くかかわるのは「衛生植物検疫措置の適用に関する協定」(SPS協定)
 Agreement on the Application of Sanitary and Phytosanitary Measures
 WTO協定付属書の中に、GATTの補助協定としてSPS協定がある。1995年のWTO発足とともに制定。
  SPS協定の目的
 輸入食品とともに病害虫が国内に侵入することを防止するために実施される検疫等の措置を、貿易制限を目的とした非関税障壁として利用することを戒め、貿易への悪影響を最小限に抑える指針を定めること。
注1)*本小論は、以下の文献に全面的に依拠してまとめたものであり、内容にかかわる筆者の独自性は少ない。独自性があるとすれば、その体系的整理という点においてのみである。
@『週刊新潮』(2013年5月23日号)、「中国産に気を取られるあなたの食卓に米国産、“危なすぎる食材”」
A石井勇人『農業超大国アメリカの戦略―TPPで問われる「食料安保」―』新潮社、2013年06月15日
B堤未果『(株)貧困大国アメリカ』岩波新書、第3章「GM種子で世界を支配する」、2013年06月27日
C鈴木宣弘「TPPが無視する遺伝子組み換え食品の恐怖」、『文藝春秋』2014年2月号
D『週刊文春』2014年04月17日号「米国産“危険食品”で子供が壊れる」TPP成立で大量流入&規制撤廃
E同年05月01日号「国産牛乳が米国産飼料で汚染されている!」
F同年05月08日・15日特大号「遺伝子組み換え食品を使っていますか?」32社実名アンケート
G天笠啓祐『TPPの何が問題か』緑風出版、2014年5月30日
 第二章TPPが脅かす食の安全
 食品添加物の承認圧力
 農薬の残留規制の緩和
 遺伝子組み換え作物
 食品表示制度への介入
 第三章食肉支配と動物感染症の拡大 BSE
 第四章進む種子支配・食料支配
 第五章遺伝子組み換え作物で事件続出
H三橋貴明『亡国の農協改革―日本の食料安保の解体を許すな―』飛鳥新社、2015年09月28日
I鈴木宜弘「TPPとのたたかいはこれからが正念場」、『農民』臨時増刊号NO.72、2015.11、「4.食の安全は守られるのか」
(1)「食品の安全が脅かされることはない」というウソ
(2)遺伝子組み換え(GM)食品のさらなる拡大
(3)食に安さだけを追求することは次世代に負担を強いること
 1)牛肉の成長ホルモン
 2)ラクトバミン
 3)乳牛の遺伝子組み換え成長ホルモン
 4)防カビ剤・防腐剤
J農民2015年11月16日
 TPP参加で輸入量が増えたら私たちの食の安全はどうなる?
 48時間通関制度の導入
 検査体制のさらなる弱体化
K石原洋介「TPP協定で食の安全はどうなる」、くらしと協同の研究所「公開講座」基調講演レジュメ、2015年11月21日
L内田聖子「市民社会の価値とTPP」、『世界』2015年12月号
M対談「偽りの“大筋合意”TPPはいらない」内田聖子×真嶋良孝、『経済』2015年12月号
N『週刊東洋経済』、2015年12月12日「日本の食」
「食の安全」に拭えぬ懸念
 国はこれまでどおりの安全性を保証する
 @環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要の第7章
 A消費者庁食品表示企画課
 B食品安全委員会
 防カビ剤→添加物扱い
 遺伝子組み換え食品の表示
 成長促進ホルモン
 抗生物質
O農民2015年12月14日
 GM表示義務のない糖類、ビール4社分別せず使用
P天笠啓祐「遺伝子組み換えた鮭が食卓に?」、『世界』2016年02月号



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