2016.2

TPP協定で食の安全・安心はどうなる
ーその体系的整理の試みー


V TPP協定暫定協定文に沿っての対照分析

 今まで手堅く守られてきた食の安全・安心がTPP協定によって一気に失われるという問題ではない。これまでの延長線上にあって、TPP協定によって食の安心・安全のための規制がさらに緩和される方向に向けて加速されるという問題の性格。
 食の安全性に関してのキーワードは、「同等の措置」、「科学的証明」、「透明性」、「貿易に対する不当な障害の排除」
 資料1 内閣官房TPP政府対策本部『環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要』(2015年10月05日)の目次(以下では『概要』と略)
 資料2 内閣官房TPP政府対策本部『環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要』(2015年11月05日)の目次(以下では『全章概要』と略)
 資料3 内閣官房TPP政府対策本部『TPP交渉参加国との交換文書』(2015年11月05日)の目次(以下では『交換文書』と略)
1.直接的関係についての対照分析
 内閣官房TPP政府対策本部『環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要』2015年11月05日

1)第2章「内国民待遇及び物品の市場アクセス章」
 第29条の「モダンバイオテクノロジー産物の貿易」
 「現代のバイオテクノロジーによる生産品(遺伝子組み換え作物)の承認に際しての透明性、未承認の遺伝子組み換え作物が微量に混入された事案についての情報の共有、情報の交換のための作業部会の設置等についての規定」に関して、その作業部会の構成、組織の法的性格、輸入国の執行に関する権限等々についてきわめて不明確な点が問題。構成、組織、輸入国の権限によっては事業者の利益が優先され、輸入国の利益、消費者の利益が奪われることも懸念される。

2)第5章「税関及び貿易円滑化章」
第10条 48時間通関制度の導入
 TPP協定は加盟国に対して新たに輸入貨物が国内に到着後48時間以内に税関を通過させることを義務づけた(P4が決めたこと)。動植物検疫や食品検疫の対象となる「他法令該当貨物」の輸入手続きには通常(平均所要時間)は92.5時間を要する。なぜならば、その検疫には培養作業や、遺伝子組み換えかどうかを調べるためには1日以上かかるPCR検査が必要になるからです。したがってこの制度の見直しは、結局は検査件数を減らすほかに道はないということになる。
 輸入手続きの迅速化という名目で輸入検査が拙速に行われることになり、各国の安全確保の実施方法が制限されることとなり、今でもわずかな抜き取り検査しか行われていないにもかかわらずさらに安全性が軽視されかねないことになる。
 検査体制の弱体化という点に関して以下の点も指摘しておかなければならない。
 輸入食品の検査を行っている食品衛生監視員の人員は現在406人、海外から低価格の食品の輸入量が急増すれば、検査率を下げざるを得ない。現状でも検査率は、2009年度12.7%、2014年度8.8%と低下する傾向にある。検査届け出件数は増加にもかかわらず、検査総数は減少しているというのが実態である。必要なのは、検査率の大幅引き上げ、食品衛生監視員の大幅増員の検査体制の拡充である。施設の拡大も必要になるが、現在の検疫所の立地の下では(その多くが第一種住居地域にあるため)、増設、建て替えが困難な状況にある。

3)第7章「衛生植物検疫(SPS)措置章」
 『全章概要』第7章の冒頭の、「人、動物の生命又は健康を保護しつつ、各締約国が実施する衛生植物検疫措置が貿易に対する不当な障害をもたらすことのないようにすること等を規定」、「科学及び危険性の分析、監査、輸入検査、証明、透明性、協力的な技術的協議等について規定」の文言が、このSPSの性格(本質)を如実に示している。同章の第7、8条の輸出国と輸入国の「措置の同等」についての規定の意味内容は空恐ろしいもののように思える。
 また、同章の第13条の「透明性の確保」には、「透明性を確保する」という理由で、TPP加盟国間でSPS委員会を設け、また各国の規制当局、コンタクトポイントを設けて、リスク分析手法によって、関係者の意見を聞いてそれぞれの措置を行うこと、SPS上の措置に関する紛争解決のために第28章「紛争解決章」に基づいて政府間協議が行われることが盛り込まれている。そこで輸入国の輸入規制に関して厳密な科学的な証拠を提出しなければ敗訴することになり、輸入国の予防的措置が委縮してしまうことになる。また、新ルールが実施されると、自国の安全基準の策定に関して海外の事業者も注文を付けることができることにつながり、自国の主権も侵害されることになりかねない。
 第7章の第7条の「地域的状況、ゾーニング、コンパートメント」についての規定は、病害虫、疾病を国境対策として行う国の権限を制限し、安易に貿易優先の考え方を持ち込むことにつながりかねない。なぜならば、病害虫など農畜産物のリスクが発生した場合でも、輸出国が地域的に封じ込めれば国として輸出禁止措置を取らなくてもよいといった貿易禁止の例外を大幅に認める考え方も盛り込まれており、これによってたとえばBSE発生国からの全面的輸入禁止措置は執れなくなる可能性が高まります。

4)第8章「貿易の技術的障害(TBT)章」
 GM食料の表示に関わる章として重要であり、要注意である。むしろ現行の表示義務の強化が必要。
 先の第7章第13条の「透明性の確保」と同様の問題が指摘される。この表現で、各国の食品表示基準の策定に際して海外の利害関係者が関与する仕組みが導入されることになるのではないか。強制規格、任意企画及び適合性評価手続きの導入に際し、他の締約国の利害関係者の参加及び意見提出の機会を与えることが明記されている。TBT委員会の設置に関しては、先にみた第2章第29条の作業部会についてとまったく同様の疑念が持たれる。

2.間接的関係についての対照分析
 資料2の『全章概要』
1)第3章「原産地規則及び原産地手続章」
 第3条は、2条の原産品に関する規定の適用上、「一又は二以上の締約国の領域において栽培され、耕作され、収穫され、採取され、又は採集される植物又は植物性生産品、当該地域から抽出され、又は得られる鉱物その他の天然の物質等を、当該領域において完全に得られ、又は生産される産品とすることを定める旨規定」としている。
 しかしもしもこれが、「貿易に対する不当な障害をもたらす」ものとして立ち現れることになるならば、これまたつぎにみるISD条項等で取り除くべき対象として措置されることになる。
2)その他、第9章「投資章」、第15章「政府調達章」、第17章「国有企業及び指定独占企業章」等々
 ISDS(投資家対国家間の紛争処理条項)
 日本政府の説明は(『概要』)、「わが国にとってのメリット」のみを強調するという異様なものになっている。濫訴を防ぐ仕組みが定められたことも強調している(国会決議「五)との整合性)。
 2015年07月29日の上記の三つの章(第9章、第15章、第17章)にかかわるリークがその本質に迫っている。この点については、日本経済新聞(5月8日)の「TPPの国有企業規制 日本郵政・成田空港対象に」の報道もある。以下は、山田正彦氏(元農林水産大臣)のコメントによる。
1.国有企業とは国(公共)の支配下にある法人の行う事業を指すもので、日本の場合は国民健保、共済健保、建国保険組合、国立・市立・離島などにある県立病院、及び畜産振興事業団エーリックなどの野菜、砂糖、畜産物の価格安定資金事業も含まれる。例外があるとすれば、すべて明記して、他の11カ国の同意を得ておかなければならないネガティブリスト方式なのですべてが該当する
2.国民皆保険制度は政府はそのまま堅持すると言ってきたが、外国の保険会社との関係では、明らかに国有企業として政府の関与が差別的で不公平な競争であり、「相手国企業の不利益」をもたらす「反競争的な行為」であるとの攻撃を受けるものと思われる。
3.中小企業などの政策金融公庫、住宅金融公庫などの公的な金融機関、労働組合、生協、農協などの共済、保険に適用されて、政府による税制上の優遇措置などもすべて該当する
4.国だけに限らず地方自治体の公共事業や国有事業に準じて、例外、工事の限定額がTPP協定で明記されない限り、日本の中小の企業と米国のペクトル、ゼネコンなどと英語と自国語との競争入札になる。
5.これらの「差別的」「公平な競争」「相手国企業に不利益を与えない」「反競争的」は条項に反したらISD条項によって解決されることになる。政府は莫大な損害賠償を求められることになる。しかも、これらの規制そのものが非常にあいまいで広範囲なものになっているが、ISDでは外国資本の投資から賠償を求められたら、日本政府がそうではないことを立証しなければならなくなる。これはきわめて困難をともなうことみておかなければならない。
6.それに大事なことは、漁業補助金の禁止は報道されたが、農業、医療、国立大学などに出される補助金も日本政府は自由に決めることができなくなる。今回明らかになったことは、TPP協定では、政府が補助金を出すにしても一定の基準を定めることが求められていることである。
7.さらに大切なことは、今回のリークでは日本政府による外資企業への「反競争的な行為」が禁止されているという点である。たとえば、食の安全で私自身も訪米の際「遺伝子組み換え食品の表示義務」を確保してほしいと言われたが、まさにそういった外資企業に対する表示義務の押し付けは「反競争的な行為」に該当することになる。
8.今回リークされた「国有企業の章」は2013年12月7日〜10日に出されたものであることに注目する必要がある。今回つぎつぎに新聞で報道された牛肉、豚肉の関税もかつては読売新聞がリークしたが、その通りになっているにもかかわらず、平気で誤報と言い張った。この間2年近くの交渉を重ねてきた今日なので、リークでの疑問部分はすべて決済済みのものと考えられる。それらの情報開示をまず私たちは求めなければならない。
 韓米FTAでは、ソウル市の学校給食条例の廃止に象徴されるように、「国産」を強調することがアメリカ産を不当に差別する可能性を指摘され、数多くの国や自治体レベルの法律・条令を「自主的」に廃止・修正することになった。

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