2014.4

不透明感増すTPP交渉の行方を読む

NPO地域に根ざした食・農の再生フォーラム理事長
滋賀県立大学名誉教授
小池 恒男

1.TPAには何が盛り込まれているのか

 02月22日からの開催を調整中のTPP閣僚会合を目前にして(日本からは甘利利明TPP担当相が出席)、12カ国は閣僚会合に先立って17日から首席交渉官会合を開き、閣僚レベルでの政治的決断に向け論点の絞り込みを図った。 
 最大の問題として浮上してきているのは、米議会におけるTPA(大統領貿易促進権限)法案の行方である(法案は100ページを超える)。2014年01月09日、米上院財政委員会のボーカス委員長(民主党)と下院歳入委員会のキャンプ委員長(共和党)が、米議会の上下両院にTPA(大統領貿易促進権限)法案を共同提出した。TPAとは、米国政府が妥結した通商協定について、議会に修正を認めず採決を促せる権限で、現在は2007年に失効したままになっている。
 TPAなしでTPP交渉の妥結に向けてアメリカが妥協したとしても、米議会の反対で合意事項が覆されるということになればTPPの妥結が宙に浮いたものになってしまう。これを避け、TPPの早期妥結を図るためには、TPAはいわば必須のものとしてなければならない。TPAは、議会がもつ交渉権限を、期限付き、条件付で政府に一時的に預ける仕組みである。だからこそ、議会がTPPに求める付帯条件をTPAに思い切り盛り込んでおかなければならないということになる。先に条件をつけるかわりに、後で文句は言いませんということになるのは当然のことである。「TPAがなければ困る、あっても困る」の「状況(1974年の制度発足以来、TPAなしの通商交渉は対ヨルダンFTAのみ)に追い込まれているものといえよう(歴代政府はTPAの取得に2年、韓米FTAは国会批准までに4年)。そのTPAに盛り込まれようとしているわが国にとって問題の案件としてあげられるのは以下のものである。
@貿易相手国の為替操作による損失を回避するために、「為替操作条項」を盛り込んでおく必要がある。円安に対する米国の許容範囲が狭まっている。貿易相手国が、内需拡大を優先せずに輸出主導の景気回復を目指すことは許しません、の意向。
A農業分野で相手国の関税率を「米国と同等かもしくはそれを下回る水準」に引き下げるよう求める。もしこれに従うとすれば、日本の米の関税率341円/1kgを約1円に引き下げなければならないことになる。小麦は55円/1kgを55銭に引き下げなければならない。
B自国の労働や環境の保護水準が低下しないようにすべきである。
Cバイオテクノロジーを含む新科学技術に影響を与えるような表示といった不当な貿易諸制限ないし商業上の義務(の撤廃)。
D衛生植物検疫措置(SPS)について、国際基準よりきびしい基準を設ける場合には科学的根拠に基づかなければならない。
E地理的表示(GI)の保護が米国の輸出の障害にならないこと。
F隠れた輸出補助金である米国の輸出信用は温存すると明記。
 韓米FTAでTPAの関係についてみると、2007年6月30日の署名時に米政府がTPAを取得していたにもかかわらず、その後に追加交渉が行われた。その結果、米側は自動車関税の撤廃期限の延長や自動車へのセーフガードなどを獲得した。つまり、「TPAがあっても交渉結果を議会が承認しなければ、行政府としては相手から追加の成果を取ってくるという選択肢しかない」ことになる。しかしこのことは、何よりも議会、何よりも国民という健全な国家のあり方ともいうべき姿ではないか。
 「オバマ大統領は、中間選挙前に自らの支持基盤や政治資本を失う覚悟を持ってまで、TPP、TPAの早期実現に踏み込むことはない」との見方が強い。「関係国との交渉を通じて、中国に対する自由貿易への改革圧力とすることが重要で、TPPの早期実現自体は政権の優先課題ではない」との見方さえある、と伝えている。
 1月下旬に開催されたダボス会議の直後、米議会上院のリード院内総務(民主党)が議会から大統領に与えるTPA法案の審議を留保した。TPPとTPAは鶏と卵の関係にみたてることもできる。
 落としどころさえ見い出せそうにない状況。あげくの果てに、足を引っ張っぱたのは日本だ、アメリカだと戦犯のなすりつけ合いが始まるか。しかし、「日本が交渉をまとめようとすれば米国の主張に乗るしかない」。難航必至との見方が強い、一方で大統領は「農産物の輸出拡大」を強く求めている。したがって、外交で一気にかたが着く可能性も否定できない。1)


1)以上の部分については、“ワシントン情報”篠崎真睦(まさむつ)三井物産ワシントン事務所長「ワールド・ウオッチ」、『エコノミスト』2014年2月11日号、他の文献を参考

次のページへ
page 1/5