2013.7

TPP参加で日本の食料農業はどうなる

NPO地域に根ざした食・農の再生フォーラム理事長
滋賀県立大学名誉教授
小池 恒男

1.日米共同声明で何が確認されたのか

 共同声明の内容についての検討に入る前に冒頭でまず確認しておかなければならないのは、2月22日の日米共同声明がただTPP協定参加をめぐってのものにとどまるものではなく、ただただ「日米同盟の強化」のために沖縄の新基地建設、軍事力強化、集団自衛権行使に向けた憲法解釈の変更の推進、原発の再稼動と推進を約束するという丸投げ外交をさらしたものであったということです。そしてこの同じ人物が、一つ一つ具体的に日本を自主独立の国家に向けて前進させていく努力を果たそうとせずに、一方において自主憲法の制定の必要性を声高に唱えるというその許しがたい欺瞞を改めて国民の眼の前に晒したということです。
 さてそれで、TPP協定についての共同声明が新たに何を確認したかについてみておきたいと思います。2月22日の日米共同声明は以下の3つのフレーズからなっています。
 「両政府は、日本がTPP交渉に参加する場合には、全ての物品が交渉の対象とされること、および、日本が他の交渉参加国とともに、2011年11月12日にTPP首脳によって表明された「TPPの輪郭(アウトライン)」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認する。
 日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国ともに2国間貿易上のセンシティビティーが存在することを認識しつつ、両政府は、最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることから、TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する。
 両政府は、TPP参加への日本のあり得べき関心についての2国間協議を継続する。これらの協議は進展を見せているが、自動車部門や保険部門に関する残された懸案事項に対処し、その他の非関税措置に対処し、およびTPPの高い水準を満たすことについて作業を完了することを含め、なされるべきさらなる作業が残されている。」
 読めば明らかなように第一のフレーズでは、当時の9カ国の交渉参加国首脳が2011年11月12日に発表した「TPPの輪郭(アウトライン)」に示された「包括的で高い水準の協定を達成すること」をまず確認しているのです。これが大前提ですよということをまず確認したということです。
 そして第二のフレーズでは、「最終的な結果は交渉の中で決まっていく」ものですから、最初から「一方的にすべての関税撤廃をあらかじめ約束するよう求められるものではない」といっています。これを安倍首相は、「『聖域なき関税撤廃』でないことが確認された」といっているわけですが、これをひっくり返していえば、「聖域なき関税撤廃」でないことが確認されたわけでもないということでもあります。言葉遊びに惑わされていけません。それに、聖域と訳されている英文はセンシビティビティであり、その意図しているところは、「すぐには関税を撤廃しにくい品目」の意味です。すぐがダメで猶予が与えられたとして、しかしその猶予は5年から10年ですよときびしく制限されているのです。さらにいえば、TPP交渉は関税についてのみあるわけでもありません。関税以外の自民党の政権公約の他の5項目(A自由貿易の理念に反する自動車等の数値目標は受け入れられない、B国民皆保険制度を守る、C食の安全安心の基準を守る、D国の主権を損なうようなISD(投資家対国家紛争)条項には合意しない、E政府、調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる)について安倍首相は言及したといっているのですが、これに対してのオバマ大統領のコメントは一言もないわけで、これらの項目について大統領から何の言質も引き出せていないのです。
 加えて第三フレーズでは、「自動車部門や保険分野に関する残された懸案事項」について日本が交渉参加に先立って参加料を早急に支払うように明記され、「その他の非関税措置」について対処するように求めています。さらにここで大きな問題としてみておかなければならないのは、日米共同声明が「自動車部門や保険分野に関する残された懸案事項」については2カ国の事前協議で解決しておいて(事前に日本にアメリカの要求を呑ませておいて)、日本の例外品目や他の5項目については交渉に参加していただいて公式の交渉会合の場で提起するのは自由ですよという内容になっている点についてです。1)このことは、交渉において日本がアメリカと対等な立場に立っていないということを意味していて、自民党が繰り返し、「交渉力を駆使して、守るべきものは守り、攻めるべきものは攻める」、「わが党の交渉力を信じてください」といってはいるものの、残念ながらこの共同声明がすでに日本の交渉力の弱さと、日本が負けてしまっていることを如実に示しているのです。

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