『豆腐百珍』その五「妙品」

 『豆腐百珍』の凡例によれば「妙品」は「やや奇品にまさるものです。奇品は形、もようなどがまさに奇ですが、おいしさではこの妙品には及びません。妙品は形、おいしさの二つを兼ね備えたものを載せています」とある。まさに妙品は味・おいしさで奇品より一枚上になる。妙品は76番から93番まで18品の豆腐料理を載せている。76番「光悦とうふ」は『豆腐百珍』で紹介しているので、他の17品を紹介しよう。(「」内は原文)。
豆腐百珍
妙品の豆腐料理メニュー
77番
「真のケンチエン」
 「豆腐一丁を十二ほどに切り、油でさっと揚げてから、一コを二つに割ってさらに細くきります。くり、皮ごぼうをごく細く切り、きくらげ、麩も細く切って芹はみじん切りにします。芹がない時は青菜でもよろしい。ぎんなんは二つ割りにし、先の豆腐と合わせて七種類の具を用意します。およそ一升(1.8リッ
トル)の具に対して、油一合(0.18リットル)を用意し、よく沸き立たせます。まず、ぎんなん、ごぼう、芹を入れて炒ため、続いてきくらげ、麩、豆腐、くりを入れてよくかき混ぜます。これを醤油で味付けをし、さましておきます。ゆばを水にひたし、板の上に広げます。さめた先ほどの具を、四.五分(約1.5センチ)の厚さでゆばの上にまんべんなく広げ、ゆばを巻きつけて、干瓢(かんぴょう)でくくります。ゆばの巻きとめ口に、水でかたくこねた葛を塗りつけておくとよいでしょう。
ゆばで巻いた具を油でよく揚げて、七・八分(約2センチ)の厚さに切ります。豆腐は結局、三度油を通ることになります。
 ケンチエン酢につけて食べます。ケンチエン酢は、上質の酢と、醤油をほぼ同量混ぜ合わせ、しぼり生姜を加えて、絹の布でこしたものです」とある。まさに手の込んだプロの料理人の豆腐料理であり、一度味わってみたいものです。
78番
「交跡(こうち)でんがく」
 「普通のでんがくのように、串に(豆腐を)刺します。鍋に胡麻の油をひき、豆腐に唐辛子味噌をぬって、つけ焼きにします」とある。()内は筆者。唐辛子味噌がポイントで挑戦してみたい。
79番
「阿漕(あこぎ)でんがく」
 「豆腐を適当な大きさに切って、さっと焼きます。すぐにうす醤油で煮詰めてから胡麻の油で揚げます。これに味噌をつけ、でんがくにして焼き、すった柚をつけます」とある。ポイントは焼いた豆腐をごま油で揚げること。
80番
「鶏卵(たまご)でんがく」
  「鶏卵に醤油と酒を少し入れ、酢もほんの少し加えてよくかきまぜます。これをでんがくにぬって、ふくれる程度まで焼きます。芥子とおろしワサビを添えます」とある。ポイントは「鶏卵タレ」にある。
81番
「真の八杯とうふ」
 「絹ごし豆腐を玉杓子ですくい上げられる大きさにします。水6に対して酒1の割合で混ぜ、よく煮てから醤油1を加えてよく煮返し、豆腐を入れます。とうふが動き、浮き上がろうとする寸前に上げます。大根おろしをつけます」とある。ポイントは豆腐を上げるタイミングと大根おろし。「渡辺式大根おろし」(大根おろしに酢と味噌で味をつける)が相性がよい。
82番
「茶とうふ」
 「豆腐十丁に対して、上質の茶一斤(6百グラム)を使います。茶を煮立て、その中に布目をとり去った豆腐を入れてよく煮ます。豆腐が茶色に染まると上げ、別の茶の出花(湯をつぎたてのお茶)の中に入れます。そのあと、豆腐を引き上げて茶の水分を切り、煮返しのうす醤油、花かつお、わさびの細切り、またはわさび味噌であじつけます。胡椒みそもよく合います」とある。多人数のお客の豆腐料理としてよい。ポイントはお茶を選ぶこととタレにある。
83番
「石焼とうふ」
 「もともとは石で焼きましたが、略して焼き鍋を使います。火を強くして、鍋に、やや多いめの油をひきます。豆腐は一寸(約3センチ)角、厚さ三分(約1センチ)ほどに切ります。鍋の上におくとしばらくして踊るように動くので、すぐに裏返します。大根おろし、醤油で味付けをします」とある。日常のおばんざいとしても楽しめる。
84番
「犂(からすき)やき」
 「前ページの石焼とうふの焼き鍋の代わりに古い犂(からすき)(柄が曲がって刃の広いすき)の先を用います。調理法は石焼とうふと同じ」とある。今日では古い犂は手に入らないのでフライパンを使えばよい。いわゆる「焼きとうふ」で、タレが勝負。
85番
「炒(いり)とうふ」
 「青のりをあぶって粉末にし、盆の上に広げます。よく煮だった油を少しづつ杓子ですくい、のりの上に落としてよくかきまぜます。これをトロ火にしばらくかけ醤油で味付けします。これを前記の石焼とうふにつけて食べます」とある。焼きとうふのタレの工夫である。
86番
「煮抜きとうふ」
 「豆腐をかつおのだし汁に入れ、トロ火で朝から夕方まで煮ます。豆腐の中に簾(す)が入り、蒸しパン状になったものを食べます」とある。ポイントはトロ火で長時間かけて煮ること。
87番
「精進の煮抜とうふ」
 「前記の煮抜とうふと同じようにしますが、昆布のだし汁に山椒(さんしょ)を加え、豆腐を入れて一日中煮ます。山椒を昆布を煮はじめるときに入れるのが秘訣です」とある。


88番
「五目とうふ」
 「包丁で豆腐一丁の真ん中まで十文字の切り目を入れます。葛湯で煮てから器に移します。器には煮返し醤油を入れ、その上に花かつおを一面にしておきます。
 のり、とうがらし、ネギの白根のきざみや大根おろしを上にのせて、器ごと食卓に出します。食卓の上でこれをまぜ合わせ、小皿に盛りつけます。夏には、豆腐、醤油とも温めずそのままで調理することもあります。つまり奴とうふの一種です」とある。底冷えのする冬、家族でコタツを囲んで「五目とうふ」を愉しむのは最高。挑戦してみよう。
89番
「空蝉(うつせみ)とうふ」
 「『蜆もどき』(57番参照)と同じように、豆腐を丸ごと水気なしでトロ火で煮ます。豆腐から出た水をスプーンですくい取り、何度も繰り返してポロポロのおからのようにします。これに胡麻の油、酒、醤油を入れて、おからのようにします。卵、かしわ、タイの身などを加え、杓子でよく練ります」とある。これは高級豆腐料理で酒の肴としても一級品。ポイントは、土鍋の弱火で豆腐を時間をかけておから状にすることと、味付けて炒め、多様な具を入れて練ることである。贅沢な豆腐料理である。
90番
「海老とうふ」
 「生の小エビを包丁でたたき、細かくします。すり鉢ですってはいけません。別に豆腐をよくすっておき、たたいた小エビと混ぜ合わせます。ねぎの白根のきざみ、大根おろし、わさび、すり山椒などを入れ、油で炒め味付けします。小エビの無いときは、伊勢海老をゆでてたたいて使います」とある。上品で贅沢な逸品。
91番
「カステラとうふ」
 「上質の酒を煮返し、酒の香りがなくなるほどにします。これに豆腐を丸ごと、十分ひたるように入れ、トロ火で煮ます。一度ふくれて大きくなりますが、またしぼんで元より小さくなると出来上がりです。味付けはお好みによります」とある。酒飲みにはもったいない豆腐料理。好みのタレを準備すること。
92番
「別山焼(べつさんやき)」
 「温かいご飯をすこし、やや固めに握ります。これを胡椒みそでつつみ、串に刺して少し焼き、二個を温めておいた飯茶碗にいれます。葛湯でよい加減に煮たうどんとうふ(100番参照)を杓子ですくい、この上にたっぷりかけます。別山は禅師の名だそうです」とある。
93番
「包油揚(つつみあげ)」
 「豆腐はお好みの大きさに切り、美濃紙で砂金袋のように包みます。板の上に乾いた灰を厚さ四、五分(約1.5センチ)ほどしき、さらに乾いた布と紙1枚を重ねます。その上に
袋に包んだ豆腐を並べ、しばらくおいて水気をとります。あまり長い時間をかけると水気がとれすぎて固まり、かえってよくありません。袋包みの豆腐を胡麻の油で揚げてから、袋の紙をはずし、うす醤油、葛で煮ます。すりわさびを添えます。雪白揚ともよばれます」とある。手の込んだプロの豆腐料理。
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