『万宝料理秘密箱』の「卵之部」

 卵は、今日では「物価の王様」と呼ばれ、日常無くてはならない食材である。しかし江戸時代では、高価な健康食品だったのではないだろうか。
 江戸時代は天明五年(1785)に『万宝料理秘密箱』という本が出版され、その中の「卵之部」があり103種に及ぶさまざまな卵の料理の仕方が書かれている。そこには現代のわれわれが学ぶ工夫がある。そのいくつかを紹介しよう。
卵百珍
百種類の卵料理メニュー
 
二十一
寄卵の仕方
 卵を割ってよくかきまぜる。卵の分量1に対してだし1.5の割りで溶き合わせて、鉢に入れて蒸す。蒸し加減は上に汁気が無くなった時が出来上がり。ぎんなんや白身の魚を入れれば茶碗蒸しとなる。
二十六
利休卵の仕方
 白ゴマをよく摺って、酒を加えてさらによく摺り、卵を割って入れてよく掻き混ぜる。これを、鉢に入れて蒸す。利休好みの一品。
三十五
柚干卵の仕方
 冬の柚を蔕付きの上三分ぐらいの所で切り、普通の柚干のように中の実を取り去り、しばらく水に漬けて柚のあくをだしてからとりだして乾かす。黄身の乱れない卵に砂糖を少量加えたのを柚の中へ八分目ほど入れて、その上へ黒ゴマをいれ、漬けた山椒を六つほど入れ、さらに米粉を少しふりかけて、よく蒸す。冬に楽しむ絶品。
三十七
長崎油餅卵の仕方
 卵を酒で煮抜きにする。卵にはほんの少し割り傷をつけておく。煮抜きが出来上がる間に油鍋に胡麻の油を沸かせておき、卵を取り出し皮をむき、うどん粉に黒胡麻を混ぜたものをそれにまぶして油で揚げる。揚げすぎないよう注意。
五十六
卯花いり卵の仕方
 卵をいくつか割ってざっと溶き合わせる。鍋の底に焼き豆腐を二つほど並べ敷いて煮る。煮えたら溶いだ卵をそろりそろりと流し入れて、遠火でゆっくりと煮る。新鮮な若布をあぶって手早く細かくし、容器に入れた卵の上にふりかける、薄口の醤油をかけ、その上に卯の花(おから)をおく。鍋の底の焼豆腐は食べない。珍味である。
六十
柿づき卵の仕方
 干し柿を3個ほどよく洗ってすり鉢でよく摺り延べ、糊のようになったら、酒を少々入れて更に摺り合わせ、卵を1個ずつ割り入れては静かに摺ることをくりかえし、12、3個ほど入れる。これを鉢に入れて蒸したものを茶碗入れるが、茶碗の底へ敷き味噌としてワサビか生姜か山椒を味噌に摺りあわせてちょっと火にかけたものを敷く。絶品である。
七十五
麦飯卵の仕方
 麦飯を炊き、炊き上がれば笊に入れて水の中でよく洗い、水気を切る。卵を多い目に割り、よく掻き混ぜ、酒を少々いれて混ぜる。昆布を敷いた釜に麦飯と混ぜた卵をいれてよく掻き混ぜ甘口の汁を入れて弱火で炊く。まさに健康食。
八十六
牡丹卵の仕方
 鍋にお湯を沸かす。卵を半紙二枚に一個ずつ乱れぬように割り込み、黒胡麻を少し入れて紙の口をねじってこよりでくくって、熱湯の中へ入れ、茹でる。茹でたら水に入れて紙をはがし、酒とだしを混ぜたもの中へ卵を入れ、鍋の蓋を取って炊く。小皿か茶碗に入れて砂糖をかける。また、茶碗に入れて葛をかけ、その上に青海苔の粉をかける。私は小皿に入れて生醤油をかけ海苔をふりかけて頂く。
卵潮煎の仕方
 昆布のだしを焼き塩で味を加減してつくる。熱湯の中へ卵を一個ずつ割りいれて湯がき、丼に暖めた酒を入れ、その中へ湯がいた卵をちょっと漬け、網杓子ですくいあげ、器に入れて先のだし汁をかけいただく。
芋巻の仕方
 長芋をよく湯がいてから冷し、上皮を取り去り白いところをまな板の上で包丁でよく押しつぶしてすり身のようにする。薄焼きにした卵の上へ別の卵の汁を少し掛け、葛の粉を少しふりかけて、先の長芋をその上に広げて押し付けくるくると巻きしめる。端の方に卵の汁を少し塗り、葛の粉もふり掛けて、中がはみださないようにして、上を布で巻きしめて蒸す。