鯛百珍料理秘密箱

 江戸時代の昔から「腐っても鯛」と言われる。「ちぎっても錦」と同じで、たとえいたんでいても、素性のよいものはよく、それだけの値打ちがあると言う事で、鯛は昔から海の魚の王者。天明5年乙巳(陰暦)7月(1785年)、鯛料理103項目にまとめた『鯛百珍料理秘密箱』が刊行されている。
 「鯛百珍料理秘密箱序」には、景甫という人が「ひたすら昔から名門の家に秘密にされて来た本をたずね求め、それに加えて諸国の名物を、すべてにわたり広く集めてこの書物の中にたくさん記載した。実に珍しい物ではないだろうか。こういった理由で“秘密箱”と名づけた」とある。文は器土堂の翁と呼ばれた人が記している。発行元は、江戸・大阪・伊勢の国各1軒、京都の3軒が名を連ねている。まさにベストセラーであった。
鯛百珍
百種類の鯛料理メニュー
 百三の「鯛料理の仕方」のうち、私が挑戦して楽しくおいしい料理の仕方を紹介しよう。
二十五
鯛麺之仕方
 鯛のうろこ、えら、臓物を取り去り、水でよく洗い、身の両面と腹の内側に酒をたっぷり塗って焼き、酒が全部に行き渡り色がつくとごま油を塗って、竹串で突き、
油が鯛全体にいきわたるようにして焼く。鍋にだしを入れた醤油を辛めにつくり熱し、そうめんを長いまま茹で、それを焼いた鯛の頭から尾まで幾重なりにも巻きつけて、先の鍋に入れて煮ます。鍋には三つ葉の茎か、春菊か、しいたけの千きりを醤油で味をつけ、さらに卵の薄焼きを千きりしたものを鯛のそばに入れて炊く。卵は皿に盛るときに上におく。子皿に薬味を入れて出す。具は旬のものを入れていただく。絶品である。
二十七
水煮鯛の仕方
 鯛をよく洗って大きな鍋に水三分の二、酒三分の一ほどいれて鯛を静かに煮ます。冬は湯に葛の粉いれ、夏だと大きな鉢に水をため冷やした鯛を入れて出す。鯛にかける汁はワサビ醤油がよい。今風の“湯鯛”は、これから始まったものと思われる。
三十八
沖煮鯛仕方
 漁師が船の中でやる料理。鍋に水をたくさん入れ、酒を水の三分の一ほど加え新鮮な鯛をそのまま入れて水から煮る。煮えたら鍋を火から離し、少し冷めれば、鱗を箸でこすって落とし、鯛の中へすぐに醤油を入れて食べる。シンプルで鯛の味を楽しむ。
四十二
利休鯛のほうろく煮之仕方
 鯛を三枚におろし皮を取ってから、三分(1cm)くらいに切って水に漬けておく。焙烙を火にかけ、昆布をだしにして酒を煮返し、豆腐をサイコロ大に切り、汁に入れて蓋をして煮る。煮えあがったら鯛を水から取り上げ入れて煮る。葛を引いて出来上がり。子皿に練った青辛子を入れてほうらくに添えてだす。まさに利休好みの一品。
五十三
小笠原流鯛の煮様
 鯛を三枚におろし、薄身の所を取り去り、四角に切る。熱湯に葛を入れて、そこに鯛の切り身を入れ、すぐに引き上げて、味噌汁や吸い物など何でも料理に使う。贅沢な一品。
五十七
山焼鯛
 鯛のうろこ、えら、内臓を取り去り水でよく洗ってから、鯛の真ん中を二つに切り、塩をまぶしてしばらく置き、また水で洗い、蛤の煮出した汁で鯛を煮る。お客に出す時は、混じり気のない生醤油に生姜の絞り汁を掛けて出す。家族で食べるときは、蛤の中に鯛を入れて食べる。
九十
鯛飯の仕方
 鯛を三枚におろし、茹でてから乾かす。その茹で汁で飯を炊く。古米がよい。ご飯がふいてきたら、鯛の身をむしってご飯の上に置き、よく蒸して、釜に盛ったまま出す。器に移すと生臭気が出る。汁を添える。汁には目立たぬように少し葛を入れる。