女性の好物「いも、くり、なんきん」

 昔も今も女性の三大好物は「いも、くり、なんきん」に変わりがなさそうだ。娘さんが焼きいも(甘藷)をほうばって幸せそうな様子を見ていると思う。それには、生理的な根拠もある。女性は本来、生命を生み出す母体であり、エネルギーの摂取に貪欲であるがその反面、便秘に悩まされる。この二つの救世主が「いも、くり、なんきん」と言われる。
 さつまいも(甘藷)は、中南米が原産で15世紀の終わりにコロンブスがスペインに持ち帰り、17世紀にフイリピン、マライ、中国に広がった。日本にはルソン島から長崎のルートと中国、沖縄を経た鹿児島ルートで元禄年間(1688〜1704)に九州に広がり、全国に普及したといわれている。その後、明和、天明、天保の飢饉にも、戦後の食糧難でも米麦の代用して日本人の命を救った。今では、女性は焼きいも、男性は薯焼酎と言うところか。 『甘藷百珍』は、江戸・寛政年間(1789〜1801)に『豆腐百珍』の姉妹編として刊行された。さつまいも料理123品のメニューは、奇品、尋常品、妙品、絶品に四分類されている。私のお気に入りを紹介しよう(注は渡辺)。
甘藷百珍
百種類の甘藷料理メニュー
 
奇品
1番「かまぼこいも」と
2番「ちくわかまぼこいも」
 1番「かまぼこいも」は、いもを生のままおろし、水気をしぼる。うどん粉を少し加え、かまぼこのように板に塗りつけて蒸す。蒸し上げてから芥子か青海苔の粉をかけ、小口切りにする。また、色粉で色付けしてもよい。2番「ちくわかまぼこいも」は、板ではなく竹に巻きつけて蒸す。蒸しあがると酒をぬり、火にあぶって焼き目をつけ、小口切りにする。
奇品
30番「衣かけいも」と
31番「薯衣(いもころも)」
 30番「衣かけいも」は、生いもを適当な大きさに切る。うどん粉を水でとき、醤油を少し入れ、切った生いもにまぶし、油で揚げる。また、いもとしょうがをほそ切りにして、同じように衣をつけて揚げたものも、なかなかオツな味だ。31番「薯衣」は、ギンナン、クリ、ころ柿、くわい、ごぼう、タケノコを醤油で味付け、生いもをおろして、うどん粉を少し加えたものに混ぜ合わせて、油でかき揚げにする。
尋常品
67番
「飛龍頭(ひりようず)いも」
 生いもをおろし、豆腐を少し入れてよくする。ギンナン、キクラゲ、麻の実、もやし、ミカンの皮の粉末などをかやくとして、おろしいもで包み油で揚げる。かやくは薄醤油で味付けしておく。
尋常品
84番「薯三盃浸」
 生いもを適当な大きさに切り、酢、酒、醤油を同量混ぜて煮かえし、丸とうがらしひとつといもを入れ浸けておく。
妙品
90番「ズズヘイいも」
 生いもを大きなサイの目に切り、油で揚げる。カツオのだし汁にお酒と醤油を入れてお好みの味をつけ、煮だたせる。別にうどん粉を器に入れ、水を少し入れてかき立て、だし汁の中へ揚げたいもと一緒にいれて、盛って出す。細かく切った柚、おろししょうが、白ネギのきざみを上からかける。
妙品
百番
「とろろ汁(やまのいも)いも」
 生いもをおろし、とろろいもと同量を混ぜ合わせる。一度炊いたあと、冷ました味噌汁でいもをのばす。青のりの粉をあとからふる(注、熱い麦飯にかけていただくと別格)。
絶品
百19番「いもとじ」 
 豆腐、生麩、つくねいもの三つを、すり鉢でよくする。生いもをおろし、汁をしぼり取り、しぼりかすは使わないで、その汁で先の三つのすり合わせたものをとき、卵の代わりに使って茶碗蒸しをこしらえる。かやくはお好みによっていれる。精進の茶碗蒸しとなる(注、ぎんなん、ゆりねは欠かせない)。
絶品
百23番「塩蒸やきいも」
 生いもを水に浸し、天然塩をべったり塗りつけ、炭火にかけて蒸し焼きにする。塩釜(海水を煮て塩をつくるかまど)からかき出した熱い塩にいもを埋めて焼いたものは風味が最高。これがいも百余品の中でも第一品と言える。「塩釜蒸しいも」と呼ぶ(注、女性が焼きいもを好むのには理がある)。