「野菜の王様」と『大根百珍』

 大根は、昔も今も日常食に欠かせない野菜の王さまで健康野菜。消化酵素ジアスターゼ、タカラーゼを多く含み、葉にはビタミンC、B1を、大根には鉄、カルシューム、リン、カリユム等のミネラルを含む。大根は地域に根ざした根菜類で長大根、丸大根、伝統種があり、品種改良が進み年中栽培され、安価で庶民の強い味方。古くは「おおね」に漢字を当てたもので正倉院文書にも登場するし、兼好法師が『徒然草』(第六十八段)に大根のご利益を書いている。天明5年(1786)に江戸と大阪で『大根一式料理秘密箱』と『大根料理秘伝抄』『大根包丁物切方之秘伝』が出版され、まとめて『大根百珍』と名づけられた。
 おふくろの伝授「渡辺式大根おろし」(大根おろしを味噌と酢で味付けして雑魚や鰹節を加える)を常食とし、さまざまな旬の大根料理をおばんざいの一品に加える我が家では、大根の調理方法を図解した『大根百珍』を重宝している(渡辺信夫)。
大根百珍
『大根一式料理秘密箱』
 
一
「縮大根切方・
 ちじみだいこんきりかた」
 大根を9cmの長さに切って、上の皮を剥いでしばらく水に漬けおいてから、取り出して、ぬるい湯の中に漬けておく。その間に大根を出来るだけ薄く剥ぎ、平らに延ばして角を切って捨て、残りを細くきざむ。きざんでいる間もぬるま湯を何度も掛けながら切ることが奥義。切り終わったら、また水を度々換えると、きざんだ大根が縮む。
二
「白髪大根切方・
 しらがだいこんきりかた」
 豆腐を作るときにできる湯を冷やして、その中へ大根を漬けておき、2時間ほどして取り出し皮を剥いて切る。ぬるい湯に切った大根を何度も掛け、包丁の薄刃にもこのぬるま湯を塗って切ると大根が薄く切れる。その大根を水に漬け、水を度々換え、大根に光沢がでてくればさらに切る。まさに秘伝である。
三
「細切疑冬大根切方・
 ほそぎりやまぶき
 だいこんきりかた」
 細くきざんだ大根を熱い湯に漬け、すぐにざるに揚げ、用意しておいた梔子(くちなし)の実の汁(上等の酒を少し入れておく)に漬ける。大根がよく染まったところで。四、五回ほど水を掛け、雫を垂らす。
『諸国名産大根料理秘伝抄』
 
一
「大根早煮之仕方」
 黒胡麻を炒って少し布に包んで鍋の底に入れ、水から切った大根を加え、三度ほどふかして、酒を少しふりかけ、また蓋をしっかりとして、それから醤油を入れか、味噌掛けにして風呂吹きにする。
十四
「利休大こん煮ころし汁」
 大根を9cmほどに薄く剥いて、それから6cmほどに切り、切り口を並べて、五六枚ずつ重ねて細く長く切る。これをたくさんつくりさっと湯がく。できれば3年くらいたった味噌の汁で煮る。それに黒胡麻を炒って十二分に摺って入れ香気を加える。青唐辛子を溶き上において出す。汁はあまり薄くても、辛くてもよくない。
十七
高野煮大こん仕方
 紀州高野山の名物。大根を1.5cmに輪きりにして、小さく切った昆布を胡麻の油で揚げ、上等の味噌を1合ほどと茶袋に入れ、大根の中へいれて、水と醤油を会わせて加え大根を煮る。風味よし。
『大根包丁物切方之秘伝』
 
 料理には細工物と言って大根を細工して料理を飾る。この細工物の切り方を図解している。「梅の花」「椿の花」「桜の花」「山ぶきのはな」「杜若・かきつばた」「牡丹の花」「なでしこ石竹之花」「百合の花」「けしなはな」「水仙花」「しんこ大こん切方」「輪違大根切方」の十二種類。プロの料理人には必見。