食・農 with コロナ

新型コロナウイルスの感染拡大で農と食はどうなる
ー新型コロナウイルスの感染拡大とフードシステムにみられる
「まだら模様の混乱」ー


NPO地域に根ざした食・農の再生フォーラム理事長
滋賀県立大学名誉教授
小池 恒男

4)需要への影響

 レストラン、居酒屋の休業ないしは営業時間の短縮、学校給食の中止、インバウンドの需要激減で業務需要が激減している。外食が減ってその分必然的に家庭食が増加して、結果として郊外の量販店の顧客が増加するという流れになっている。しかし、量的な関係でいえば、前者が後者を上回り、トータルでは需要の減少という傾向は避けられない。また、“お家(うち)ご飯”“巣ごもり需要”とたたえられている一方で、電気代、家賃、住宅ローンで食費をも節減せざるを得ない貧困層の広がりの動きもみておかなければならない。
 はじめに、『家計調査年報』の2020年3月、4月度の速報値に基づいて家計でみた食料消費の全体的な動きについて概観しておきたい。表5で明らかなように、はじめに消費支出の動向についてみると、消費支出そのものの減退が3月のマイナス6.0%につづき、4月にはマイナス11.1%とさらに拡大する傾向で推移している。4月のマイナス11.1%が比較可能な2001年以降で最大ということで、コロナショックによる消費の落ち込みが大きく、コロナショックがやはり基本的には消費全体を引き締める方向で作用しているという点をまず確認しておきたい。
 食料支出もマイナス2.4%からマイナス6.6%ということで、食料消費も明確に減退傾向にあるが、その激変の中身はきわめて象徴的である。つまり外食の減少がきわめて大きいということ、3月ではマイナス32.6%、4月に至ってはマイナス65.7%とまさに激減、激変である。これに対して食料の他の中分類のところでは3月度では唯一菓子類が、そして4月にはこれに調理食品、果物が加わってはいるが、他の穀物、魚介類、肉類、乳卵類、油脂・調味料、飲料、酒類は増加傾向を示している。そのプラス値を、外食のマイナス値がはるかに上回っていて、全体として食料支出がマイナスになっているという構造になっている。4月になると肉類、乳卵類、野菜(生鮮野菜では16.5%の増加)、調味料の増加がより鮮明になって、“おうちご飯”の本格化が特徴づけられている。手軽につくれるパスタをはじめとするめん類の増加も著しく(34.2%の増加)、お酒もおうちで飲みましょうという傾向を示している(21.0%の増加)。ただし、テイクアウト、デリバリー、通販の増加は家計調査では読み取れない。もしもそれらのものが自宅で荷受けされ、自宅で食されたとすれば表4の調理食品のうちの「主食的調理食品」の増加としてとらえられるはずであるが、4月度におけるそれの前年同月比はマイナス6.0%となっている(その調理食品に占める割合は4月度で42.5%)。

表5 2020年3月度・4月度の中分類別にみた食料の支出額と前年同月比(二人以上の世帯)
分類別\ 3 月 4 月
実数 構成比 対前年同月比 実数 構成比 対前年同月比
 消費支出 292 214円 △ 6.0% 267 922円 △11.1%
  食料 79 509  100% △ 2.4  73 919  100% △ 6.6 
   穀物 7 254  9.1   6.5  7 253  9.8   10.7 
    米 2 132   15.3  2 110   11.8 
    パン 2 798  △ 3.4  2 680  △ 6.3 
    めん類 1 825   23.0  1 921   34.2 
   魚介類 6 336  8.0   4.7  6 136  8.3    7.0 
   肉類 8 156  10.3   10.3  8 610  11.6   19.7 
   乳卵類 4 286  5.4   9.1  4 463  6.0   18.5 
   野菜・海藻 9 111  11.5   6.3  10 215  13.8   10.0 
   果物 3 193  4.0   5.7  3 031  4.1  △0.6 
   油脂・調味料 4 050  5.1   11.7  4 201  5.7   21.6 
    油脂 451   9.5  464   18.9 
    調味料 3 599   12.0  3 737   22.0 
   菓子類 7 680  9.7 △7.7  6 384  8.6  △11.5 
   調理食品 10 526  13.2   2.0  9 996  13.5  △1.6 
   飲料 4 723   5.9   5.4  4 681  6.3   1.7 
   酒類 3 450   4.3   8.2  3 823  5.2   21.0 
   外食 10 744  13.5  △32.6  5 127  6.9  △65.7 
    一般外食 10 370  △33.2  4 776  △67.0 
    学校給食 374  △13.5  351  △30.5 
資料:総務省『家計調査年報』2020年3月、4月速報値

注1)食の外部化」という点では、食料支出を分母、「調理食品+外食」を分子として算出される26.7%が
   それにあたる。それが4月に20.4%へと低下している。

 D-Tの業務需要に関しては全体として、5月11日までの倒産件数141件のうち、36%が宿泊業、飲食店によって占められており、それにともなう需要喪失の影響が大きい。日本フードサービス協会の4月27日発表の、3月の外食売上高の対前年同月比は17%減となっている。もっとも大きいのはパブ・居酒屋の43.3%減。緊急事態宣言が発令された4月は、店舗への休業要請、自粛休業が相次いでおり、当然のことながら3月以上の落ち込み、売り上げ9割減を予想せざるを得ない状況にある。短期的にみるとここには、休業要請が徹底されればされるほど(換言すれば、休業補償金が充実されればされるほど)、失われる業務需要が大きくなるというトレンドオフの関係がある点について注目しておく必要がある。
 行き場を失った食材はもちろん最悪のケースは廃棄であるが、テイクアウト(ドライブスルーでセット販売)、デリバリー(宅配)、通販等々で急場を凌のいでる、たくましく対応しているというのが実態である。家庭食の疲れの反動で中食が伸びたり、“出前シェフ”といった特殊な販売先の開拓も進んでいる。ただし、「持ち帰りや宅配で補えるのは従来の売り上げの5〜10%だけ」というのが実態である。
 表2で明らかなように、外食産業の多くは休業要請の対象外とされ、事業継続の要請を受けながらも(営業時間短縮の協力の要請は受けているが)、結局は外出自粛と「自主休業」に追い込まれ、実質休業を強いられているというのが実態である。11)外食産業は全国約45万店、480万人の雇用を抱えているがその大半は中小企業である。手元資金が乏しい企業が多く、手元資金を月商で割る手元流動性比率は全産業が1.9カ月であるのに対して、飲食サービスは1.6カ月、とくに規模の小さい資本金1千万以上2千万円未満は1.1カ月である。インバウンドの(訪日外国人)需要の激減に加えての新型コロナウイルス感染の拡大にともなう需要の激減、売り上げの激減で最大の被害を受けている業界といえる。
 外食産業の中心はD-T-1の飲食店であるが、とりわけ都心や中心街の飲食店は時間短縮、休業、従業員の雇い止め、店じまいと経営の危機に直面している。元通りの営業を見通すことはほとんど不可能というもっともきびしい究極の選択を迫られている。ただし飲食店といっても、ファーストフード店、レストラン業態、個人経営の店舗、そしてチェーン店と差別化も進んでいる。チェーン店の場合は、運営会社のもとに直営の食品製造工場をおき、全国展開をするケースもあれば、ローカルにとどまるケースも多々ある。ローカルなケースでは10数の飲食店を運営するという形をとって、1000人近い職員を雇用している。食品製造工場をはじめ多くの職員はパートタイマーによって占められており、6月に入ってもパートタイマーの自宅待機がつづいている。アメリカでは2008年のリーマンショック以降、多くの飲食店が閉鎖に追い込まれ、大手チェーンに置き換わったとされているが、わが国においても、このコロナショックで飲食店の店じまい、大手チェーンに置き換わるという動きは避けられないものとみられている。12)
 D-T-2の料理店、D-T-5のホテルについては、休業、従業員の雇い止め、解雇といった対応もみられ、このことが高級食材の需要の喪失をもたらしている。
 D-T-4の学校の休校にともなう学校給食の停止についてみると、小・中・高、大学をはじめとする文教関係が広く休業要請の対象になっている関係で、ほぼ全面的な需要ストップとなっている。表2ではC-T-3に、表1では休業要請の対象の「大学」、「文教施設」に該当する部分である。新型コロナウイルス対策の全国的な休校は177カ国・地域に及んでおり、約13億人が登校できていない。それにともなう学校給食停止の影響は大きく、学校給食が無くなった子供たちが世界で3億7 000万人に及ぶと報道されている(世界食糧計画WFP、国連児童基金ユニセフの呼びかけ)。わが国における「子ども食堂の閉鎖」の報道もまた胸痛むできごとである。このように、弱者のところに集中的にあらわれる食料不足が大問題であることは何びとによっても否定されるものではない。品目的には米、牛乳、野菜類が中心であるが、給食食材の転用の対応としては、もちろん最悪のケースとしては廃棄であるが、一方において、食材を子ども食堂、福祉施設、生活困窮者の支援団体(フードバンク)等に無償提供する、給食の食材を生産する農家らを一般の消費者に結び付けるウエブサイトを立ち上げる(大阪府)等の対応もみられる。
 D-T-7のインバウンド(訪日外国人)の需要については、出入国の制限による需要の喪失ということであり、その9割減の影響はあまりに大きい。感染が収束しても簡単には元には戻らないであろうと予想されている。
 D-Vの輸出については、3月の農林水産物・食品の輸出額が732億円となり、前年同月比で10%減となっている。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、欧米などで飲食店の休業が広がり、牛肉、日本酒など主力品目が軒並み苦戦している。政府が力を注ぐ農林水産物・食品の輸出はきびしい局面を迎えている。これまで輸出をけん引してきた牛肉は、前年同月比39%減の16億円。2月の減少幅は11%だったが減少幅はさらに広がった。2019年まで過去最高額を更新していた日本酒も一転して落ち込み、22%減の18億円となった。緑茶も22%減の11億円、リンゴは8%減の8億円であった。農産物の輸出を安倍農政の“農業の成長産業化農政”の牽引車と位置づけてきただけに関係者のショックは大きい。水産物の3月の輸出額は134億円で、対前年同月比23%の減少となっている。水揚げや出荷を一時中断した産地もある。新型コロナによる輸出先の外出制限や物流の停滞、国際便の減便の影響が大きいが、「中国のバイヤーが来日できず商談ができない」という深刻な事情にもよっている。
 以上、具体的な事例をあげて、実態を確認してきたところであるが、確認できる実態は、一言でいえば、全面的な食料不足(食料危機)ということではなく、物流が全面ストップということでもなく、全面的な需要の消滅でもなく、それは、フードシステム全体に広がった痛みをともなった「まだら模様の混乱」の発生ということになるのではないか。
 もう一点付け加えておかなければならないのは、以上で明らかなように、フードシステムの多くの部分がいわゆるエッセンシャルワーカーによって担われているという点である。それは文字通り、「営業自粛要請の例外として働いている医療機関や公共交通機関、生活必需品の生産、物流、販売に従事する人々であり、換言すれば、“巣ごもり”できない人々を指している。


5)フードシステムの大分類別にみた量的把握

 外出の自粛要請と休業要請のフードシステムへの影響についてみてきたが、最後に、そのフードシステムの量的関係について確認しておきたい。表6で明らかなように、大分類の農林漁業、食品製造業、食品関連流通業、外食産業の4つのプロセスは、表3のAの供給、Bの加工・製造、Cの流通、Dの需要にそれぞれ対応している。農林漁業の国内生産は1980年から2015年の35年間に16.6%の減少で、構成比は24.9%から11.5%に著しい低下を示している。これに対して食品製造の国内生産は同期間に1.7倍に増加したが構成比は23.6%で変わらない。同様に、食品関連流通業は2.2倍の増加で、構成比は27.2%から35.2%に上昇している。外食産業は1.8倍に増加して、17.7%から35.2%へと急上昇している。輸入についてみると、輸入食用農林水産物は同期に1.3倍に増加しているが構成比は2.6%から1.9%に低下している。同様に、輸入加工食品は3.7倍に著増して、構成比も4.0%から8.6%へと急上昇している。

表6 最終消費からみた飲食費の部門別の帰属額の推移
1980(昭55)年 1995(平7)年 2015(平27)年  *1
農林漁業 13兆5150億円(27.5%) 12兆7980億円(15.5%) 11兆2740億円(13.4%)(83.4)
 国内生産 12兆2780億円(24.9%) 11兆6550億円(14.1%) 9兆6770億円(11.5%)(80.4)
 輸入食用農林水産物 1兆2370億円(2.6%) 1兆1430億円(1.4%) 1兆5980億円(1.9%)(129.2)
食品製造業 13兆5820億円(27.6%) 24兆9950億円(30.3%) 26兆9860億円(32.2%)(198.7)
 国内生産 11兆6280億円(23.6%) 20兆3980億円(24.7%) 19兆7920億円(23.6%)(170.2)
 輸入加工食品 1兆9540億円(4.0%) 4兆5970億円(5.6%) 7兆1940億円(8.6%)(368.2)
食品関連流通業 13兆3590億円(27.2%) 27兆5870億円(33.5%) 29兆4820億円(35.2%)(220.7)
外食産業 8兆7360億円(17.7%) 17兆0750億円(20.7%) 16兆1040億円(19.2%)(184.3)
合 計 49兆1910億円(100%) 82兆4550億円(100%) 83兆8460億円(100%)(170.4)
資料:総務省等10府省庁「産業連関表」に基づいて農林水産省が推定

注1)*1 2つ目の()内数値は対1980年比

 感染症の世界的な発生と濃淡をともなったその世界的な伝播、それによって生じた、労働力の国内外の移動の制限、国内外における物流の阻害、それによって引き起こされた「人の命や健康の大規模な棄損とともに生じた食料の供給・流通・需要の歪みと混乱」は、現在のところは(換言すれば、短期的には)、外食産業の分野に集中的に壊滅的な影響をもたらしている。そこで起こっている休業、雇い止め、解雇、休廃業(倒産件数の5.2倍に及ぶという実態)のもっとも切迫した危機に見舞われているのがこの業界である。ここでの業務需要の縮小が国内の生産現場には販売先の喪失という形で小さくない影響をもたらしている。そういう意味で、この度のコロナショックが“需要ショック”といわれる所以はここにも示されている。
 食品製造業に関しては、米国で起こっているような感染者の発生による大規模な操業停止、工場閉鎖というような事態になった場合には、もちろんシェアーが大きいだけに(23.6%)その影響もまた大きい。ただし、「食品製造業における」という限定をおけば幸いなことに現時点では大きなトラブルは発生していない。しかし基本的には食品製造業の職場が濃密接触という環境のもとにある点、また、わが国の事業所に対しておしなべて「7割出勤」という国からの協力要請が出されていて、フル操業にブレーキがかかっているという点も気になるところである。
 シェアがもっとも大きい(35.2%)食品関連流通業に関しては、現時点において致命的なトラブルを発生させていない点はまさにラッキーとしなければならない。しかし、この業界の操業が基本的に恒常的な人手不足の状態のもとで維持されているという点についての認識が欠かせない。生産と消費をつなぐ重要な結節点にあって、ここでのトラブルの発生は直接、川上の生産と川下の消費に多大な影響を及ぼすことになる。
 以上の食品製造業、食品関連流通業、外食産業の3つの分野に共通する特徴として強調しておきたいのは、この3つの分野の業務がいずれも在宅勤務で代替できない、テレワークで代替できない現業によって支えられていて、そこでの感染発生等にともなう労働力確保の破綻が食料提供に致命的な影響をもたらすという点である。
 さて、問題の国内生産についてであるが、指摘するまでもないが、表5で明らかなように、1980年から2015年にかけての35年間において、唯一、一貫して縮小傾向を示している点にある。もちろんこのことは新型コロナウイルスの感染拡大のはるか以前からつづいてあるが、食料と農業及び関連産業にあって土台たるべきこの国内生産の縮小は、コロナショックアフターにおける社会経済のあり方を展望するうえでも最大の問題である。社会経済のグローバル化のもとで起こった感染症の拡大の世界化が、わが国あるいは世界のフードシステムが全体として薄氷の上に成り立っていることを改めてわれわれに知らしめたのである。そしてこのフードシステムの危機回避、維持、改善のために準備されているわが国政府の補償があまりに姑息で、雇用調整助成金、持続化給付金、無担保・無利子の融資制度のいずれをとってみても緊急事態宣言にそぐわないあまりに貧弱である点も強調しておかなければならない。“食料危機”の対極にある「正常な食料の供給と需要」が、薄氷の上で保たれているという実態をよくよくみておかなければならない。


第5節 いかなるオルタナティブ(代替案)を見い出すべきか

新型コロナウイルスの猛威の前に外出自粛、悪戦苦闘の自宅待機を余儀なくされているなかにあって、ささやかながら幸せだなあと感じるのは、量販店に山と並ぶ野菜や果実であり、蔵に貯め込まれたお米の山である。新型コロナウイルスの感染によってもたらされている現時点でのより深刻な危機は、医療・介護、営業・雇用、教育の分野において先行して発現している。それとの比較でいえば、食料に関しては、危機の手前で踏みとどまっている状態にあって、危機に備えた事前の体制固めが求められている段階にある。13)
 現時点でとらえられる新型コロナウイルスの感染拡大によってもたらされている平常時にはない食料をめぐっての混乱は、「新たな病原体という生物起源によって引き起こされる人の命や健康の大規模な棄損とともに生じるフードシステム(食料の供給、加工・製造、流通、需要)に生じるまだら模様の混乱」と定義されるのがふさわしいのではないか。これがまた自然災害によってもたらされた災害の一つには違いなく、これがいつステージアップして、「食料不足の危機的状況」に突き進む危険性をはらんでいることもまた否定できない。また、たとえそうでなくても、先にも述べたように、学校給食が無くなった子供たちが世界で3億7 000万人に及ぶとの報道や、わが国における「子ども食堂の閉鎖」の報道もまた胸痛むできごとであることにかわりはない。このように、弱者のところに集中的にあらわれる食料不足が大問題であることは何びとによっても否定されるものではないこともまた言うを待たないところである。
 同時にまた、この「まだら模様の混乱」とともに一時的に生じた雇い止めや解雇、失業を、労働力の不足が生じている分野に充てるというマッチング、そして一時的に生じた食材の需要の喪失を食料の不足している人々につなぐというマッチングの対応策については、短期的にはさまざまな知恵を働かせてたくましく対応していかなければならない。14)現実に貴重な対応が生まれていることも事実である。しかし、この新型コロナウイルスの感染拡大を、現時点で、安易に一時的、短期的にとらえて事足れりなどということはあり得ないことである。この先の秋冬に予想される第二波、緊急事態宣言という繰り返しを想定しておかなければならない。「まだら模様の混乱」のさらなる深刻化も想定しておかなければならない。そういう意味では、一方において、よりマクロの視点に立った、より長期的な視点に立った展望ももたなければならいであろう。
 最後に強調しておきたいのは、リスクコミュニケーション(リベラルな危機管理のアプローチ)の重要性についてである。危機への対応で重要なことは、国家権力の強い強制力に頼るのではなく、政府が情報をできる限り明らかにし、国民の理解と協力を得るリスクコミュニケーションの徹底である。新型コロナウイルスの感染症に関しては、国民はまさに恐怖心とともにその未知のウイルスと向き合っているわけであり、それ故に、広く情報を収集して、分析して、適切にわかりやすく、そして心情を添えて国民に伝える能力が国のリーダーには求められる。ましてや、国民に、何かが隠されていると思わせるようなことはリスクコミュニケーションとしては最悪のこととしなければならない。にもかかわらずきわめて残念なことではあるが、年初からのわが国のコロナ禍に対する対処のあり方には、このリスクコミュニケーションの原理に反することがいかに多くあったことかと思わざるを得ない。このことを最大の反省点とすることが、今後の2波、3波の感染拡大に備えるうえでもっとも意義あることではないか。
 図書館も閉館、公園もダメ、海も山もダメ、それで長期にわたってどうやって健全な肉体的、精神的な安定を確保するのか、決してたやすいことではない。それで思いつくのはやはり農作業(農業)しかないかの思いである。幸い現在のところ感染が農業者に及んだという情報はない。悲しむべきことというべきか、ありがたいことにというべきか、田や畑、農村には人影もないのだから当然といえば当然のことなのかもしれない。発想転換の市民農園、自給力の確保にとどまらない健全な肉体と精神を確保するための農園、それは協同の農園であってもいい。これもまた、“もう一つの農業”“こんなところで、こんな人が、こんな農業”の一つと言えるのではないか。
 サプライチェーンの瓦解、格差のさらなる拡大、「G-ゼロ」時代(G-7ないしはG-20が存在しない時代)、国際協調の後退、さりとて、第2次世界大戦後の復興をマーシャルプランで担った米国は今はなく、の現状である。病める資本主義高まる代替可能な経済システムへの転換の期待には、競争より協同、効率より民主主義、便利より自由の理念が込められている。コロナショックアフターの社会経済の未来像として、VITAL産業を核とする小規模生活圏(地域基盤の生産消費経済)とそれを取り結ぶ連携連帯の支えあいの社会経済ネットワークの形成と、そのあり方が提起されなければならないであろう。15)
 いうまでもなく農業協同組合は、表3で示したフードシステムのスミからスミまで広く深くかかわりをもつ存在である。経営体、組織体、運動体という魅力、総合事業の魅力を備えた協同組合として、新型コロナウイルスの感染拡大(パンデミック)に直面して新たな力の発揮に期待が寄せられるのは当然のことであろう。コロナショックアフターを切り拓く確かな担い手として、また、地域を基盤とする小規模生活圏・地域圏クラスターとそれを取り結ぶネットワークワーク形成の確かな担い手としての自覚が今までにも増して問われているのである。
(引き続き、終章の5をお読みください)

前のページへ
次のページへ
1  2  3  4